地域の風景としての古民家
古民家旧鈴村邸 愛妻家珈琲
総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」によれば、山梨県の空き家率は、全国でワースト3位と依然と大きな課題となっています。一般家屋、大型建造物の新築なども、地域経済にとって重要ですが、空き家が廃屋化していく、空き地が目立つなどの状況は、その地域を荒廃させます。持続できる地域社会を目指すうえで、空き家の再利用に取り組み、新たな役割を生み出すことは、地域社会にとって大切なことです。このシリーズでは、古民家をリノベーションし、地域コミュニティの新たな拠点となった建築物のオーナー、リノベーションの専門家、再利用の担い手の取り組みに迫ります。
第1回目は、「旧鈴村邸」。甲府駅南口からほど近い場所に、趣のあるリノベーション古民家があります。オーナーの 飯田 千春さんの生まれ育った生家です。現在は、千葉にお住いの飯田さんは、この思い出が詰まったこの家を何とか残せないかと思い悩んでいた時に、不動産業の方の紹介で、以前にteteにご登場いただいたことのある(株)SHOEIの大原さんと出会います。空き家プロジェクトに並々ならぬ熱意を持って取り組んでいる大原社長との出会いで、鈴村邸再生が始まりました。オーナーとしては、福祉事業で活用できないか模索している中、古民家利活用募集に現在営業中の「愛妻家珈琲」の店主である 浅川 元寿さんが応募し、オーナー、リノベーション施工者、不動産管理者、活用事業者の偶然の出会いが「旧鈴村邸」の再生に繋がります。
「旧鈴村邸」は、「愛妻家珈琲」のカフェスペースと「ちはるばぁばの部屋」として、地域の住民のコミュニティの場、学生の社会活動のスペースとして利用されています。飯田オーナーが仰るには、実際に運営を始めてみると、予想もしなかった出会いや、活動の場として「旧鈴村邸」が地域のお役に立てることがわかったそうです。今後も、建物を後世に残すだけではなく、地域の生活・文化の拠点としての役割を担って行ってくれれば嬉しいとも仰っていました。
「愛妻家珈琲」を営む 浅川さんは、渋谷区恵比寿発祥の猿田彦珈琲にて創業時から10年ほど勤務。もう一度原点に返り、お客さんが喜ぶ顔が見られるカフェを営みたいと、出身地である山梨県に帰 って創業準備をしていく中で、「旧鈴村邸」に出会ったそうです。「ささやかなコーヒー、特別な時間。」を大切にした「愛妻家珈琲」でのカフェ時間は、リノベーションの建物に包まれ、穏やかなひと時となります。本当に特別な時間が流れます。
今後は、フードメニューも充実させ、地域から愛されるお店を目指したいと、どこまでも自然体でお話くださった店主さんでした。
リノベーション物件は、どんなに素晴らしい建築物でも、新たに持続できる役割がなければ、また空き家になります。当然維持管理費はかかり、ボランティアで持続することは不可能です。古民家再生で重要なことは、素敵な器とその器を活かすコンテンツです。その組み合わせが、再生した物件を次の世代に残していけるのです。「旧鈴村邸」は、関係者の意思や想いが見事に結実し、その素敵な佇まいを新たな地域の拠点として見せてくれているのだと思います。もう一つ大切なことは、その新たな生命を宿した物件を、地域の方々が一緒になって応援し支え、次世代に残したいと言う想いも重要だと消費者の一人としてつくづく感じる取材でした。