森を暮らす、森に学ぶ
専務取締役柳生 直子氏
八ヶ岳南麓西井出の森にある“八ヶ岳倶楽部”。県外の観光客のほとんどが立ち寄ると言っても良い観光スポットです。俳優の“故 柳生博”さんが開設した、今年創業36年目を迎える、カフェ・レストラン、ステージ、ギャラリーと八ヶ岳倶楽部の森からなる複合施設です。
柳生さんの八ヶ岳との出会いは、柳生家の家訓である「13歳になったら一人旅をする」による旅先が、八ヶ岳だったことが始まりです。その後、俳優として活躍されるわけですが、東京での暮らしの中で生活のバランスを失い、祖父の教えにより、土に触れる生活をするため、以前一人旅で訪れた八ヶ岳を思い出し家族で二拠点生活を始めたそうです。八ヶ岳での生活を続ける中、八ヶ岳倶楽部の構想が浮かび、自然との接点の場として、訪れる人にここでゆったりとした時間を過ごしてほしいという想いで、八ヶ岳倶楽部は成長してきました。特に、“八ヶ岳倶楽部の森”は、柳生博さんが黙々とこの土地の植生に合った広葉樹などを植え続け、下草を刈り、枝打ちをしながら森作りをしてきました。その森が、回遊できる散策路になっていて、四季の変化を見せてくれる、木々たち、山林に生える草花、野鳥や野生動物など、多様な生態系がそこにはあります。清廉な空気の中で、お茶を飲みながらのんびり過ごすひと時は、日々の生活に疲れる現代、何にも変え難い大切な時間となります。
今、柳生博さんの次男柳生宗助さんは(有)八ヶ岳プランニング代表取締役社長兼務で、東京の会社に勤務しながら月に2回程度八ヶ岳に来る生活を送っています。八ヶ岳倶楽部の現場を実質切り盛りするのは義娘で専務取締役の柳生直子さんと取締役の山田幸司さん。今回はこのお二人にお話を伺いました。直子さんは、子供の頃から、自然の中で、草花や生き物に触れながら転げまわって育ったそうです。東京で仕事をしながら、八ヶ岳倶楽部のスタッフとして土日限定で楽しく働いていたそうですが、今ではこの施設を受け継いで運営する立場になりました。そこには、様々なストーリーもありました。
ここで全ては紹介しきれませんが、森を愛する気持ち、柳生博さんが育んだ八ヶ岳倶楽部の森を未来に引き継ぐという想いは、強く心に残りました。山田幸司さんは、大学で全く異なった専攻だったにも関わらず、以前から強い関心があった環境アセスメントに関わりたくなり、知床での自然保全の仕事をしたそうです。そこで、八ヶ岳で自然と共に生きる俳優(柳生博さんのこと)がいることを知り、八ヶ岳倶楽部のスタッフに応募して、現在は、この地に居を構え、八ヶ岳の自然と共に生きていくことになったそうです。八ヶ岳倶楽部は、こういった自然と共に生きることを目指した方々によって運営されているのです。
また、スタッフの方々についても直子さんは感謝を忘れません。「森の近くに住んでいると、自然の生態系の中には、大きな木もあれば、小さな木もあり、春しか咲かない草花や秋に咲く花、様々な植物、昆虫や微生物やその他生き物たちがともに絶妙な自然の調和のバランスの中で暮らしているのを感じます。八ヶ岳倶楽部の経営も、誰かが誰かみたいにならなければいけない!とかではなくて、それぞれの長所や個性を活かして、凸凹ながらも、みんなで補い合いながらやっていくことで、それぞれが精一杯それぞれで在ることで、そこに調和が生まれてくるのではないか、絶妙なバランスが生まれてくるのではないかと私は思い、そんなチームを目指しています。縁あって、こうして八ヶ岳倶楽部で働いてくれている仲間は、倶楽部の宝だと思っています」
緑溢れる森に囲まれた植物
柳生博さんがお亡くなりになった後この八ヶ岳倶楽部をどう運営していくか、継続していくか、ある意味、柳生博さんに依存していた感がある同施設を運営していくのは、大変なご苦労があったことと思います。直子さんは、2021年には森林セラピストの資格も取り、「子ども林ツアー」「森の癒しのリトリート」など、利用者の方々に森の素晴らしさを知って頂くための機会提供事業を行ってきました。
そして、この八ヶ岳倶楽部の森を未来に繋ぐため、広く森の支援を募る「八ヶ岳倶楽部の森サポーターズ」に昨年より取り組んでいます。今後も、森の空気感を、ここまでお出でいただけない方々、入院中の方々、介護支援施設の方々などに向けて、ネットで風景、風の音、鳥のさえずり、森の香りなどをリアルにお届けすること(オンライン リトリート)にチャレンジしたいとも仰っていました。また、「tete第8号」に掲載させていただいた「萌木の村」にある「ナチュラルガーデンズMOEGI」も環境省から認定されている生物多様性保全に取り組む区域「自然共生サイト(OECM)」への認定も目指しています。
「確かな未来は、懐かしい風景の中にある」という柳生博さんの遺志を大事にしながら、八ヶ岳倶楽部の新しいページを描くことに取り組むスタッフみなさんの熱意を感じる取材でした。山梨県に住む者として感じる幸せは、観光ではなかなか味わえない八ヶ岳倶楽部の森の四季折々の風景をいつでも体感できることです。県外の方から見れば本当に贅沢な空間が身近にあることって、素敵だと思いませんか。
新緑の森の庭を歩く、柳生直子さんと山田幸司さん
【企業PROFILE】
有限会社 八ヶ岳プランニング 八ヶ岳倶楽部
山梨県北杜市大泉町西井出8240-2594