column2

郡内織物を次世代に引き継ぐ

CEO 代表取締役社長羽田 正二氏

郡内織物は、山梨県を形成する個性!!

郡内織物(ぐんないおりもの)は、1000年以上の歴史を持つ伝統的な織物で、間違いなく山梨県の地勢、風土に基づく地場産業です。江戸時代には「甲斐絹(かいき)」と呼ばれる高級絹織物が生産され、羽織の裏地などを盛んに生産しました。また、「郡内縞(ぐんないじま)」と呼ばれる縞模様の織物は、粋な江戸の町人に好まれ、文学作品にも登場しています。tete第7号にご登場いただいた“槇田商店”も、郡内織物の老舗で、時代の変化に対応するための取り組みを紹介させていただきました。今回は、ネクタイを中心に、今の市場に訴求できる商品を提供している“羽田忠織物”にフォーカスします。

100年企業HADACHU

“羽田忠織物[HADACHU ORIMONO]”は、1935年現社長の祖母が織物業を始めたところから始まります。その後、社長のお父さんが事業を拡大し、羽田忠の礎を築きます。裏地布の織物から、ネクタイ地の織物業へと変遷しながら、25年前に現社長“羽田 正二さん”にバトンタッチしました。社名羽田忠の由来は、お父さんの名前“忠一”から、一文字をとって命名されたそうです。ネクタイ生産の中心は、OEMによるものだったそうですが、槇田商店でもお聞きしましたが、OEMでは、発注量の先々が読みにくい、急に発注停止になるなど、取引先の都合に経営を左右されやすいこと、自社名が最終商品に反映されず、社員のモチベーションを維持しにくいなど、ご苦労をされたことと思います。そこで、羽田さんは[HADACHU]ブランドで、自社のデザイン商品を市場に提供するビジネスモデルに取り組みました。その時に大切にしたコンセプトは「自分達は、長年の経験を持つ織手である」ことです。郡内織物らしいネクタイ地で、商品開発をし、他社製品との差別化に努め、独自のネクタイブランドを展開しています。

HADACHUのブランドイメージは大人の遊び心

時代は、良いものを作れば売れる市場ではありません。羽田社長は、バイクや車が好きで、特にクラシックなものに惹かれるそうです。ブランド、ショップ、商品デザインのコーポレートイメージは、その社長の感性に基づくものです。若い頃のデザイナーの方々との交流が下地になっていると教えてくださいました。自分の好きなものを、商品に反映させていくという、まるで永遠の少年のような好奇心や面白がる気持ちが、商品に色濃く出ているように感じます。ネクタイ業界は、クールビズから始まってビジネスカジュアルなど生活様式の変化が、需要の低下を招き、人口減少も相まって決して楽観できる市況ではありません。ネクタイ製品を通して、郡内織物の歴史を引き継ぐために、今後は、女性向けのトラッド系タイなどの商品も開発し、女性消費者から支持されるブランディングに取り組みたいとも仰っていました。

郡内織物の後継者問題

一番危惧していることは、この地域の後継ぎ問題だと言います。織物業界に限ったことではないかも知れませんが、親族に後継ぎがいない事業者も多く、最盛期に比べてかなり減少している事業者が、さらに廃業をしていくことも予想されています。自動織機が高性能化しても、経験によるノウハウは、製品製造に欠かせないと社長は教えてくれました。職人の技能の断絶は、取り返しのつかない事態を招きます。そうなる前に、民間事業者だけでは対応できない後継者問題を解決するための方策について、行政と共に取り組みたいと切実な想いもお聞かせいただきました。

郡内織物は、歴史ある地場産業ですが、伝統工芸ではありません。事業者は消費者が日常使いの買いたくなる商品を供給し、その企業努力も理解できる健全な地域消費者がいて初めて存続できるマーケットです。事業者、消費者とも時代の変化や要求に対応しながら地場の産業に寄り添うことも、地方の活力を失わないための生き方かも知れません。

【企業PROFILE】

有限会社 羽田忠織物
山梨県富士吉田市上暮地3-7-26