桔梗カット180面体で有名な〝現代の名工清水幸雄さん〟が代表取締役社長を務める株式会社シミズ貴石様にお邪魔いたしました。山梨県の地場産業の中でも、宝石業界は全国でも類を見ない産業であり、〝宝石の街甲府〟と言う表現はまさしく正鵠を射た形容だと言えます。その宝石業界で半世紀以上、数え切れないほど石を切ってきた清水さんのお話は、地場産業である宝石業界の今後を示してくれるものでした。
ファセッター研磨が主流である宝石研磨業界、手摺り職人が減っていく中で、卓越した手摺り技能を持つ清水さんが、この地にいらっしゃることそのものが、奇跡と言っていいかも知れません。宝石業界は、傍から見るほど好況ではなく、どちらかと言えば不景気産業だと清水さんの言。バブル期に大量に取引をして莫大な利益を上げていた業界、利益増大を狙って、加工料が安い海外の研磨職人への仕事のシフトなどの影響を、業界は払拭しきれず、負の遺産を未だ引きずっていると清水さんは感じています。
ただ、以前と違って光明もあると仰っています。ネットワーク社会が、これまでの硬直した業界の商習慣を徐々に変えてきていると感じていて、「SNSは、われわれ生産者にも大きな好影響を与えてくれる。昔の商習慣では考えられなかったB2Cを職人ができるという大きな時代の変化が、新たな宝石業界のビジネスモデルを形作って行くかもしれない。本当に欲しいお客さんに、直接お届けできるという仕組みが、これからの職人の生き方になっていくのではないか。」と教えてくれました。以前は、諦めていた後継者育成についても、手摺り技能の承継者として次世代の職人さんも増え、清水さんの技を引き継いで承継しようとみなさん頑張っていました。後継者育成と技能承継で何が大切かを問うと、「仕事があって、この業界で生活の糧を得られることが一番重要だ。」と仰っています。
桔梗カット
基本的に形状の最終形まで研磨
水晶原石をスクェアカットのための形に整える。
面に輝きを与える
粗削りした原石に面を作っていく
この工程を、各5分、計20分で石が輝く!!指先の感覚だけで正確な角度で石を切り、磨いていくその技は、まさに神業!!
甲府の象徴とも言える「手摺り宝石研磨」の技が引き継がれ、山梨県の個性を彩る重要な地場産業として生き続けることを切に願います。
手摺り研磨を引き継ぐ、〝小林かん奈〟さんは、清水さんが講師を務めている山梨県立宝石美術専門学校の卒業生で、社会人からの学び直しで宝石業界を目指した人材です。ただ、専門学校時代は彫金を専攻し、清水先生の下で学んだ期間は短かったそうです。その後、回り道はしたけれども縁あって、シミズ貴石に入社し、研磨作業の楽しさに目覚め、師匠の清水さんの手摺り研磨の継承者として研鑽に励んでいます。「手摺りでしかできない製品を追求したい。」「手摺り技能を自分が次に伝えられるよう自覚も芽生えてきた。」と、静かに語っていただきました。清水さんが言われていたSNS活用も、小林さんが入社したことで、加速したのかも知れません。
現在シミズ貴石様では、欲しい石の購入をお願いして納品まで約4か月待ちの状況です。「仕事がある」ことが、職人、技の承継に繋がることをまさに体現して見せてくれている会社訪問でした。
所在地:山梨県甲府市高畑1-13-18
TEL.055-228-1180
事業内容:宝石カット