Make You Happy 地域インフラを担う高い技術力の伝承

地方独自の生き方を持続するために

 地方の人口減少と高齢化、大都市への人口集中が止まりません。日本全体でも人口・市場とも縮小の一途です。少子化対策、地方活性化など様々な政策が展開されていますが、右肩上がりの社会・時代の考え方では、良い結果は生まれません。まずは、縮小と言う現実を受け入れること、下り坂での生き様を改めて考えることが重要ではないでしょうか。大都市以外の地方では、限界集落ぎりぎりの地域も増えており、コミュニティが成立することすら難しくなっています。地方が独立独尊で、その地域性を維持しながら今後も持続していけるかどうか、まずは、自分が暮らす地域をよく理解し、時代に寄り添う独自のライフスタイルを確立することが大事だと思います。その生き方を実現する上で、今回ご紹介する2社は、地域が都市部に頼らず社会を持続する上で重要なインフラ整備に関するノウハウを所有する企業です。〝Made in Yamanashi〟を今後も実現する上で、県内にこのような企業が存在する幸せを感じます。
 仕方なく地域で生きる、都会型生活スタイルを模倣するのではなく、自らが積極的に〝地域を生きる〟考え方を今号は追求します。

飯田鉄工が手掛けた清里高原道路 八ヶ岳高原大橋(山梨県北杜市高根町)の写真

飯田鉄工が手掛けた清里高原道路 八ヶ岳高原大橋(山梨県北杜市高根町)

飯田鉄工のロゴ
山梨を基盤に、全国各地で活躍。
インフラ事業をメインに展開する
技術者集団

 昭和23年、電気などの動力を使わずに水の制御を考える「自動堰研究所」として甲府市で創業した「飯田鉄工」は、県下初の水力発電所の水門の開発・工事にはじまり、今や全国各地の公共工事に関わっている。「いい仕事」にこだわり続けることで、実績を積んで次なるステージへ。山梨に基盤を置き、進化を続ける「飯田鉄工」を紹介する。

品質の高い鋼構造物で、
全国の工事を請け負う

 水門、橋梁、除塵機など、鋼構造物の総合メーカーとしてインフラを担う「飯田鉄工」本社機能のある笛吹市のほかに、埼玉や宮城、大阪や福岡など全国10ヶ所に営業所を構え、各地で社会基盤を支える工事を手掛けている。
 同社の歴史は昭和23年から。山梨県に水力発電所ができた際に水門が必要となり、その水門のまわり一連を請け負ったことが始まり。「自動堰研究所」として、水門に関わる製品の開発を始めました。その10年後には「自動堰製作所」としてものづくりに転換し、昭和47年に「飯田鉄工」と社名を変更しています。
 「水門事業のほか、橋梁の工事を始めたのがこの頃だったと聞いています。背景にあったのは、仕事の平準化。山梨の現場をメインとしながら、徐々に関東圏の工事も請け負うようになっていき、従業員の技術と仕事の質が高まっていきました。」こう聞かせてくれるのは、常務取締役の保坂雅寛さん。
 同社の事業が大きく展開していくきっかけとなったのが特許製品「パテント」の存在。「研究所として創業し、開発に力を入れていた背景があるため、水門に関わる製品の特許を取得していました。その特許製品を活かし、北は青森、南は鹿児島まで全国各地の水門工事に携わらせていただいたというかたちですね。水門を設置し、その数十年後にはメンテナンスの依頼を承る。一つひとつ、現場を重ねて実績と技術力を培ってきたのが飯田鉄工。近年、入札で受注が決まる公共の工事においては『総合評価落札方式』が採用されています。大企業でも、地方の中小企業でも、作るものは同じ。会社そのものと人、その両方の評価に評価点がつきます。つまり、いい仕事をするとアドバンテージをもらいながら次につなぐことができるのです。」(保坂常務)

飯田鉄工株式会社社員の写真
現場で溶接する大型の鋼構造物
高い技術力を維持するための取り組み

 製品を一貫体制で作り、施工するところまでを担う同社。部品をつくって現場に運び、その場で溶接して組み立てを完成させます。特に水門事業では、川や海やダムなどの負荷のかかる環境で、確実に溶接する技術が求められます。
 「重要になるのは、社員の技術・技能をいかに維持するかです。高い技術力と個々人の技量の維持のために、資格取得のサポートはもちろん、技能検定を毎年行うこともしています。そして技量ランクを分けて、高い人が低い人を指導することで全体のレベルアップを図っています。溶接の仕事は免許を取得して初めてスタート。そこから厚い鉄の板を用いた現場など、難易度が高い仕事に携われるようになるには、センスのある人でも5年はかかります。日常的な仕事の積み重ねで次の仕事に繋ぐのが飯田鉄工。社員教育の面でも経験と伝承を大事にしています。」と製造・工場統括の森田香さん。その繰り返しが「安全につながる」のだと続けます。
 近年は、建築工事に用いる鋼材も日々進化。それをどう土木工事に取り入れていくか、どの地域にどの素材が適しているかを検討しながら、提案していくこと、そして新たな特許製品の開発も考えていきたいと保坂常務。課題や要望に合わせた設計から製品の製造・提案、現場での施工、そしてメンテナンスまで。山梨のみならず、全国各地のお客様から信用・信頼される「飯田鉄工」は、山梨が誇るローカル企業の一つといえるでしょう。

飯田鉄工株式会社の仕事風景1 飯田鉄工株式会社の仕事風景2
飯田鉄工株式会社の仕事風景3 飯田鉄工株式会社の仕事風景4
常葉川橋(山梨県南巨摩郡身延町)の写真

常葉川橋(山梨県南巨摩郡身延町)

曽根 久佳さんの写真1

 ポリテクセンターの金属加工科を経て、1年と少し前に飯田鉄工に転職しました。現在は「製造管理部」で組立が完了した製品が図面通りに正しく仕上がっているかのチェックを行う役割を担っています。それまでは仕事を転々としがちでしたが、飯田鉄工に惹かれたきっかけは溶接の現場を見たこと。この会社の仕事に携わることで、何か自分の軸となるようなことを学べる気がしました。今は、自分が溶接を行なっているわけではありませんが、生活の一部となるような鋼構造物が実際現場に設置される前の確認を行うのが僕の仕事ですから、日々、緊張感とやりがいを感じられる。仕事が楽しいですね。

曽根 久佳さんの写真2
大村 拓也さんの写真1

 僕が担っているのは、組立部品の溶接。研修を経て、実際に少しずつ任せていただけるようになりました。ポリテクセンターの金属加工科で基礎的なことは学んでいましたが、やはり実際の仕事となるとその都度応用していかなければいけません。図面通りにきちんと作るのはもちろん、「これで本当に大丈夫かな」と思った際には、先輩に聞くなどして確実に「大丈夫」と思えるようにして仕上げています。今後の目標としては、人に質問しなければいけないような場面を減らして早くひとり立ちすること。それと図面の理解力も高めていきたいと考えています。

大村 拓也さんの写真2

飯田鉄工株式会社
常務取締役 製造・工事統括
森田 香さん

森田香さんの写真

 企業姿勢と人の評判でお仕事をいただいている飯田鉄工ですから、技術の伝承や次世代の若手を育てていくことは常に大切な課題です。とはいえ、どちらも一朝一夕で実現できるものではありません。研修や資格取得サポート、そして何より実際の現場でコミュニケーションを重ねながら、徐々に積み上げていくものだと考えています。技術者の育成という点では、弊社は「山梨県鉄構溶接協会」の運営にも携わり、溶接コンクールを開催するなど鉄材を使用している建築関係の業者で互いに切磋琢磨をしていける環境づくりにも努めています。技術そのもので外部と競うことができる機会というのは、個人のモチベーションを上げてくれますからね。
 また、公共事業の仕事が多い弊社は学生の知名度が低いというのも課題の一つ。そこで近年は地域の学校の職場見学を受け入れたり、地元の高校へ溶接の指導に行ったりという活動もはじめました。私たちの仕事はインフラの基盤となり、日常生活を支えるものです。その一例として、県内7つのダムのゲートに携わっているほか、先日は京都の渡月橋の水路の整備にも携わりました。そうした仕事の内容に誇りと自覚を持ち、自身を高めていこうとする向上心のある若手が育ってくれることを期待しています。

飯田鉄工株式会社の写真

飯田鉄工 株式会社

所在地:山梨県笛吹市境川町石橋1314
   TEL.0555-72-6000
事業内容:水門 自動除塵機 水圧鉄管 橋梁
インクラインSR合成起伏堰
各種鋼構造物鉄工・機械加工受託