地方の活力/地方新時代

teteのバックナンバーでも何回か取り上げましたが、山梨県の歴史・風土が育んだ製品、産地、文化などは、地方の個性を彩る重要なファクターです。

ただ、時代の流れと共に、事業として継続が難しくなったり、現世代から求められなくなったりすることは世の常であり、それが人間の営みの現実です。ネット社会が全国津々浦々に浸透し、情報の量・質ともどこの地方でも取得することは容易になりましたが、依然としてリアルな環境面では、大都市と地方の格差が益々広がっています。それが、若年層の県外流出を招き、人口減少時代における一極集中を生みます。

一極集中社会から分散社会に移行するには何が必要か、どの地域で人生を送るのかを選択できる社会になるためにはどうすればよいのか、人口減少が激化してきた時から考え続けています。そんな中、今山梨県に限らず、東京ではなくあえて地方で事業を営む本物のプロフェッショナルが増えてきています。有名になる、大きな利益を上げるには、東京で事業を行った方が成功の確率は高いかもしれませんが、目指すものが違う、利益よりも大事な何かを求めて、地方で事業を行うケースに、今号では着目しました。地方新時代の幕開けであって欲しいと願います。

New regional era


地方から世界へ

極東(Far East)とイースト菌(Yeast)、そして醸造(Brewing)が社名のクラフトビールメーカー。2017年に小菅村に自社工場「源流醸造所」を立ち上げ本拠地も移転。山梨県内には、多くのクラフトビールメーカーがあり、それぞれ個性ある人気のビールを供給していますが、東京でブランド、販売ルートを確立したメーカーが、その本拠地を山梨県において、この地域から新たなブランディングをする地方のビジネスモデルとして紹介します。

代表取締役 山田 司朗 さん カスタマーサービス・コーポレート チームマネージャー 森藤 朋子 さん代表取締役山田 司朗 さんカスタマーサービス・
コーポレート チームマネージャー森藤 朋子 さん

小菅村と出会う

ヨーロッパで数年暮らした山田さんは、小規模な醸造所で生産されるヨーロッパの伝統的なビアスタイルに興味を持ち、帰国後、独学でビール製造を学び、クラフトビールメーカーの起業準備に入ります。2011年、東京で日本クラフトビール株式会社(2015年Far Yeast Brewing株式会社に社名変更)を創業。当初は、オリジナルブランド「馨和 KAGUA」をベルギーの醸造所に醸造委託。販路開拓、ブランディングに集中した後、2017年に自社ブルワリーを小菅村に開設しました。

小菅村になったいきさつですが、大商圏である東京へのアクセスの良さ、寒冷な気候であること、水がきれいであることなどの条件で探している中、東日本大震災の原発事故の影響で、関東地方全体が貿易上の障害が発生し、唯一山梨県だけが、その影響から外れていたそうで、山梨県で醸造所設置に的を絞ることになります。県庁の斡旋もあり、小菅村の物件と出会い、前述の希望条件にも合致することから、当地での醸造が始まることとなりました。山田さんは、正直なところ譲渡価格も予算的にこちらが考えていた価格帯であったことも影響したと教えてくれました。ある意味、小菅村ありきでの移転ではなく、偶然が重なってこの地との出会いがあり、この地に来て、小菅のビールとして世界にクラフトビールを発信する形が出来上がったとも言えます。 

小菅村の地域性を活かして

実際に小菅村でビール醸造を始めて8年になりますが、東京時代との違いについてもお聞きしました。当初、本社は東京に置いたまま、工場が小菅村という形態をとっていたそうですが、クラフトビールのお客さんが望むのは、産地は何処か、ビールの個性は何かが重要であり、本社機能を小菅村に移転して、ビジネス展開がやりやすくなったとも教えてくれました。この地に来て、地場の個性や特性を活かす醸造についてより強く考えるようになったそうです。クラフトビール、地ビールも、他の酒と同様、その土地に根差したもの(テロワール(terroir)が明確)であることが、支持をいただくための重要な要素だとも仰っていました。実際にこの地に移転後、地元果実、県産ホップ、地元産大麦、小麦の使用率を上げる努力を続けています。

地元と生きる

当社の販売先は、日本全国、海外(北米中心で、アジア、ヨーロッパにも輸出)と販路は多彩ですが、山梨県に移転後、県内の飲食店や事業者との取引量が格段に増えたそうです。これは、実際に移転してみて予想外の反響だったと仰っています。ただ、この地に移転してきた2017年当時、日本のクラフトビールメーカーは300社ほどだったそうですが、来年には1,000社を超えるだろうと言われています。希少価値が薄れ、需給関係から淘汰の時期に入るかも知れません。生き残るには、個性的で美味しい品質の良い商品を安定供給できるブルワリーであることが大事だと仰っています。その為には、前述したように、地域の風土、気候によって培われた地元産の原材料にこだわり、地域の事業者とも協働しながら、小菅村のビールというブランドをより強くしていきたいとも仰っていました。最近は、小菅出身の社員も入社してきており、地元企業としてこの地域に根差し始めたと感じていると、森藤さんからお聞かせいただきました。

当社のビールは、各種アワードで再三受賞をしており、世界的に最も権威ある「ワールドビアカップ」でも受賞しています。また、瓶詰後に2次発酵させる日本では珍しい製法のビールでもあります。個性的な新商品も次々に開発しながら、新たなステージに向けて、小菅村から美味しいビールを供給しつづけるFar Yeast Brewingの取組みは、地方の新しい形を見せてくれる営みでした。

【企業PROFILE】

Far Yeast Brewing 株式会社
山梨県北都留郡小菅村4341-1