Column
今回のteteは、多様性社会に寄り添い今後どう生きていくかに取り組む企業や個人にフォーカスして企画編集してきましたが、ポリテク山梨利用者以外にも、これからの多様性社会に真摯に向き合い、未来に向かって様々な取組みを行っている事業者が数多くいます。障がい者、外国人労働者の方々が、生き甲斐を感じながらこの国の産業社会で生きていくことを支援する事業者にその取り組み・考え方をお聞きしました。
雄大な八ヶ岳連峰を背景に、その南麓で野菜の水耕栽培を営むNSD八ヶ岳ファーム。東京のIT企業(株)NSDが、障がい者雇用推進を目的に2012年に事業を始めた農園です。
ほうれん草をメインとした葉物を栽培する葉物圃場ときゅうりを専門に栽培する果菜圃場の2拠点からなるファームで、現在、様々な障がいを持つ27名の方が、活き活きと働いています。
葉物圃場を管理する境井さんに、今に至る経歴をお聞きしました
「当事業所は2012年に開所、事業を開始しましたが、開所後の数年は離職者が少なからずおり、定着率向上のため福祉の専門家を導入しようという責任者の考えから、元々社会福祉法人で障がい者の就労支援および職場適応援助(障がい者の職場定着を目的とした当事者と企業の調整役)に携わっていた私に白羽の矢が立ったようです。
福祉の経験を活かした環境整備を進めることで離職者は減少傾向に転じ、福祉側との太いパイプを構築することで求職者数増加につながりました。また、このような動きや意見を快く受け入れてくれた企業側の理解があったことも大きかったと思います。
福祉経験者の必要性を評価していただき、現在では私を含めて4名の福祉経験者が雇用管理者として現場で従業員をサポートしております。まだまだ改善点も多く発展途上ではありますが、ありがたいことにここ数年は離職者も出ず、毎年従業員は増加傾向にありますので、これからますます社会に貢献できればと考えています」
続けて境井さんにお聞きしますが、福祉の立場から、企業として障がい者の雇用管理をしていく立場に変わりましたが、何か気づいたことは
「ビジネスとして継続していくには、一般市場で消費者に支持される商品を供給し続けなければならないこと、企業の知名度を上げる努力が必要であることをつくづく感じています。障がい者が作っている野菜だから大目に見て欲しいとか、アドバンテージが欲しいとかは通用しません。良い品質の商品を、求められるタイミングで適正量を安定して供給できるように運営していく必要があります。
その為に彼らには、一社会人、農作業員として責任と自覚を持って働いていただけるような環境設定をしています。
代表的なものとしては人事考課システムです。彼らの能力・働く姿勢といったものを評価し、その内容が賞与に反映される形をとっていますので、評価向上に向けてモチベーションを高く持たれています。中には業務上の問題や、社会参加に課題のある方もいます。そういった方には福祉の専門家にご協力いただき、生活面も含めたサポートを展開しています。
福祉としての配慮・サポート、そして労働者としての社会性、この2つの心構えがどちらも重要だと感じています」
単に働く機会の提供や、企業の法定雇用率を達成するための取り組みとは別に、適正給与と事業の継続性は、障がい者の自立のためには、絶対必要ですよね
「ここで働く方の働き甲斐(生き甲斐と言ってもいいかも知れません)、達成感と社会的自立を当事業所は目指しています。それを実現する為に、彼らが『ここで働きたい』『ここに自分の役割・居場所がある』といったアイデンティティを確立できるような風土づくりを心掛けています。そこに、働きに合わせた高水準の報酬を設定することで社員のスキル向上を促し、その先にある生産力アップを目指しています。彼らが、障がい者である前に社会を構成する『一人の人間』として 意欲的に社会参加できるように、市場や消費者から求められるような、社会にとって必要なやりがいのある仕事を創造しつづけることが大切だと思っています」
多様性を受け入れる覚悟とは
「多様性に関しては、時代の変化に合わせて極力寛容でいたいと思っています。ただ、様々な物事に対して否定的な意見があることも事実で、そうした反対意見もまた多様性の一部だと考えています。ですのでどちらか一方の正義を振りかざすのではなく、価値観や考え方の違う人とも対話し、お互いが譲れるところを探すスタイルを持つ。ということが重要ではないかと思います。時代は変われど、相手を思いやる気持ちが基本ですね」
【企業PROFILE】
株式会社NSDワンピース
(NSD特例子会社)
山梨県北杜市大泉町谷戸4816
責任者:浅川 祐二
フューチャーアグリ部長
本 社:株式会社NSD
東京都千代田区神田淡路町2-101
おわりに
NSD八ヶ岳ファームの商標で、中央卸売市場経由で一般のスーパーなどに流通する野菜。生産者が障がい者である表記を一切行わずに、市場を構成する一事業者としてビジネス展開するNSD八ヶ岳ファーム。事業として継続していくことを第一に、魅力ある商品を供給し続けるための取組みを拝見し、これからの時代、仕事をしていく上で、健常者、障がい者関係なく、それぞれの立場、職能に合ったパフォーマンスを展開することが重要であり、皆違って当たり前の社会をどう生きるかを、個人一人ひとりが考えることこそ、ダイバーシティが実現できると思える取材でした。