労働市場の
多様化は必然
ダイバーシティ(Diversity)という言葉が日本で盛んに使われるようになったのは記憶が確かであれば、日本IBMで女性初の取締役に内永ゆか子氏が就任し、女性活躍でのダイバーシティの象徴的なエポックとして盛んに紹介された頃からだと思います。今から四半世紀前の出来事です。欧米では、その遥か以前からダイバーシティと言う言葉と概念が当たり前の社会であったことも記憶にあります。一方、日本のダイバーシティの推進状況はどうでしょうか。労働人口が確実に減少する労働市場が目の前に広がっているにも拘わらず、人材の多様化が進んでいると言えるのでしょうか。
今号は、多様性社会をテーマに、人材の多様化に向き合う企業の取り組みを中心に企画編集しました。多様性を受け入れることは、施し、哀れみ、慈善ではありません。特別なことではなく現実であり、日本の労働市場にとって受け入れることが必然だということを理解する時期が来たのだと思います。その為には、性別、年齢、障害の有無、国籍の違いによる特性や相違をお互いに理解し尊重し合い、共に働く術を身に付けなければなりません。今号がそのヒントになれば幸いです。
山梨県北杜市に本社を置く「オキサイド」は、2000年に小淵沢町で産声をあげた山梨県発のベンチャー企業。国立研究所の研究者である現会長の古川保典氏が国家公務員兼業制度利用第1号として「研究成果を社会に還元したい」という思いで創業を開始しました。以来、事業会社でありながら、アカデミックな部分に力を注ぎ続ける姿勢を崩さない同社は2021年4月に東証マザーズ(現グロース市場)に上場。売上に対して15%は研究開発費とし、研究の成果を活用した「技術ファースト」のものづくりを追求し続けています。
同社が得意とするのは単結晶とその応用製品。中でも「単結晶技術」を活用したものづくりという点で、唯一無二の技術を誇ります。「単結晶というと聞きなれないかもしれませんが、身近な例でいうと砂糖や塩、チョコレートも単結晶の粒が集まってできています。山梨でいえば水晶を思い浮かべていただくのもいいですね。オキサイドが作っているのは『光学単結晶』と呼ばれているもので、光を当てて光の波長を変換したり、電気信号を加えて光の強度を調整することができるといった特性を持っています」わかりやすく説明くださったのは、管理本部の名取美智さん。オキサイドの単結晶技術は主に半導体産業やヘルスケア産業に導入されているもの。半導体ウェハ検査装置に採用されて半導体メーカーが実施する検査の質の向上を叶えているほか、ヘルスケア産業ではがん診断用の「PET装置」に必要不可欠な「シンチレーター単結晶」を製造しています。「単結晶の性能が良ければ良いほど、得られる画像が鮮明になったり、検査時間を短くしたりできる。ですから私たちの研究や技術は、治療の精度向上や患者の身体的負荷の軽減につながっていくものなのです。最終ユーザーは生活者であるみなさんであることが多くても、単結晶を目にすることはほとんどないでしょう。けれど、単結晶やそれを作り出す研究・技術というのは、現代社会においてなくてはならないものといえるでしょう」と、研究アドバイザーの博士(工学)田中功さん。田中さんは若い世代の研究を後押しすべく、同社にジョインしたといいます。
山梨大学の修士課程を経て同社に入社し、研究員として活躍する渡邉美紀さん。渡邉さんは、博士課程にチャレンジをすることを決意したそう。「社会人ドクターを目指すというのは、自分が携わっている職務と研究がかけ離れてしまえばしまうほどに論文を仕上げることが難しくなります。しかしオキサイドには生産・開発をしながら、自分のテーマを進めることが可能な環境と制度が整っています。事業会社でありながら、アカデミックな色を強く残しているのがこの会社の特徴だと感じています。さらに、経験豊かな方が多くいらっしゃいますから、アドバイスやヒントをいただくこともできます。論文は大変ですが、日常的に意見交換をしながら研究を進めることができ、面白いと感じています」(渡邉さん)
同社では創業当初、大変お世話になった「山梨に恩返しがしたい」また、地域の子供たちへの雇用創出の観点から、近隣の高校からも新卒採用をスタート。技術者や研究者の育成のみならず、幅広い社員のチャンスを支援する教育体制を整備しています。「当社に入社されてくる高卒社員は素直で誠実、大きな伸びしろを感じさせる方が多いです。当社では個々の社員の成長計画を長期視点で支援する人事制度を導入しており、上長と相談しながら自分で自分のキャリアを決めて実践していくことのできる環境を整えています。重要なのはカルチャーマッチ。年間を通してインターンシップを受け入れていますので、ぜひ当社に触れてオキサイドとはどんな企業かを知ってほしいと思います」(名取さん)
管理本部
人事・総務グループ
統括マネージャー
名取 美智さん
高度な技術が必要になるだけに人材確保が容易ではないというのが当社の課題である一方で、大手企業や研究機関で活躍された方が第二のフィールドとして入社されることが多いそう。技術指導はもちろん、安定的な生産体制の確立、キャリアパスについても若手世代に伝えられることは多く、経験値の高いシニア世代の活躍が同社の躍進を後押ししていることは言うまでもありません。
「若手の教育の際には、できる範囲で知識を深めていけるように指導します。教育体制は整備されていますので、あとはどうグリップしてあげるかで、自走できるように支えるのが僕らの役目です。また、稼働状況についても見える化を推奨。研究開発を生産性に落とし込み、利益に反映するシステム(DX化)を導入しました」と聞かせてくれるのは大手メーカーから転職をした樋和宏さん。別分野でエンジニアをしていたという高野喜実彦さんは「研究開発に注力する一方で、事業会社であるからには継続的に同品質のものをお客様に提供できる生産体制がなければいけませんから。当社の製造工程には『ムリムダムラ』がまだたくさんあると感じています。その改善策として品質管理の見える化を図るシステムの構築が必要だと考えました」と続けます。
それぞれの分野のプロフェッショナルが各自の経験を活かし、知恵を注ぐ。同社の躍進の背景に、貪欲により良い状態を探究する精神があるのはいうまでもありません。