令和6年大相撲5月場所は、入門7場所目の新小結大の里の優勝で幕を閉じました。3月の大阪場所は、大銀杏もまだ結えない新入幕力士の尊富士が優勝、現在は怪我の為十両に落ちていますが、ザンバラ髪の伯桜鵬も新入幕で優勝争いを演じました。
世代交代と後継者育成は、いつの時代でも避けては通れない課題ですが、直近の大相撲界の、ある意味世代交代と言って良い現実を目の当たりにすると、これまでの世代交代や後継者育成の経験値は、もはや通用しない時代が来ているのではないかと考えさせられます。
これまでの歴史ある企業の組織構造は、大雑把に言えば、新人層、中堅層、ベテラン層、経営層、トップから構成されています。各階層から選抜され上位階層に上がり、順を踏んで昇格しながらリーダーへと成長するのが普通のプロセスでした。近年、飛び級昇格や若手抜擢など、世相を反映する人事も多く耳にするようになりましたが、新人がいきなり頂点を極めるようなことは一般企業では起こり得ませんでした。アスリートの世界では、一気に形成が逆転することも可能性としてあり得ない話ではないですが、歴史と伝統を重んじる大相撲界では、厳しい階層社会の中で研鑽を積み重ね、力を蓄えた上で、衰えてきた上位力士に取って代わるメカニズムがこれまではありました。人口減少と歪な人口ピラミッドにより、先人よりも後継者の数が少ない社会においては、それらのプロセスを踏んで世代交代することが、もはや難しいのではないかと思われます。今回の相撲界の出来事と同様に、才能や能力の高い次世代人材と一気に入れ替わるという世代交代も考える必要があるのではないかと感じています。マネックス証券の松本氏は、後継はその者が若い時期に行うべき、先代は支援ではなく応援に徹すべきだとも言っています。
大胆な世代交代は、様々な軋轢や矛盾を生むだろうことは想像できます。ただ、人口減少と超高齢化が進む日本において、相撲界のような世代交代は一般社会においても必然的に発生するとすれば、その際に起こる課題・問題にどう対応するかは、日本人の知恵にかかっていると言えるのではないでしょうか。後継者は育成するのではなく、世代交代が劇的に起きて、後継者になってからそのポジションで成長する時代かも知れません。(令和6年6月初旬執筆)
ポリテクセンター山梨の離職者訓練コース「IoT機器プロダクト科」及び「機械設計エンジニア科」は、訓練カリキュラムの終盤で、約3週間にわたる訓練関連業種での企業実習の設定があります。デュアル訓練と言う手法で、訓練施設内での学習に留まらず、関連業種の企業において現実の業務体験をすることで、適性を判断する、業界を知るなど実践的な人材育成を目指す仕組みです。今回ご紹介する株式会社エム・エー・ティーは、この企業実習先として、積極的に訓練生の受け入れを行ってきた会社で、人材確保の一つのルートとしての企業実習受け入れについてお話を伺いました。
株式会社エム・エー・ティーは、システムエンジニアリングサービス、アプリケーション開発を主とするIT企業で、各種クラウドサービスやRPA導入、業務改善提案などに強みを持つ会社です。
「地域のITインフラを支え、市場が縮小傾向にある地方の活力を上げることを企業の使命として取り組んでいる。山梨県で大手企業の営業所を除き、山梨県資本の会社として、様々なクラウドサービスを活用した業務改善提案ができるのが、当社の強みだと考えている」と話してくれるのは、事業企画・営業担当の深澤さん。
IT業界のテクノロジーの進化のスピードは益々速くなっており、常に新しい技術や考え方を吸収していかないと瞬く間にノウハウが陳腐化してしまいます。各社員がキャリアアップしていかないと、人材の階層・組織構成が成立しないので、次世代人材の確保と育成は、最重要課題だと仰っていました。
その人材確保の方法の一つとして、ポリテクセンター山梨の離職者訓練コースの企業実習生の受け入れが有効だと考え、積極的に取り組んでいます。そのメリットについてお聞きすると、「3週間近く一緒に時間を共にすることで、お互いが理解し合え、ミスマッチがないことで定着率が高いことと、IT業界への適性が判断できること」を挙げています。企業実習中に最も注視するのは、〝仕事への姿勢〟、〝やる気〟だと、三科社長、深澤さんとも仰っていました。そして、「新しいことにチャレンジできる人材がこれからは一番重要」とも言っています。
IT業界の特性もあり、人材構成の新陳代謝は常に必要であり、併せて育成システムも重要です。エム・エー・ティーが企業実習生を受入れた人数は、延べ15人以上になっていますが、受け入れにあたっての手間はかかります。企業実習中のカリキュラム策定、教育担当者の選任、学習状況の把握と評価など、企業としてかなり労力を使います。ただ、次世代人材が減少する中、これまでのようなリクルート活動だけで、自社が望むような人材を確保していくのは至難の業です。世代交代のための人材確保と後継者育成は、これまでのルーティンに囚われず、企業自らも汗をかかなければならない時代なのではないでしょうか。
株式会社エム・エー・ティーは、現在、広いオフィスへの引っ越しも検討中で、益々社員数も増え、成長する将来ビジョンを描きながら、事業に取り組む活気あふれる企業でした。