事業を未来に繋ぐ

今号は、人口減少時代における「世代交代・後継者育成」をテーマに、ポリテクセンター山梨を活用いただいている企業の取り組みについて取材しました。世代交代は、いつの時代にも対応しなければならない課題であり、この課題を解決しながら組織や文化が綿々と引き継がれてきました。ただ今後は、これまでに経験のない後継者人口が急激に減少していく中での、世代交代に立ち向かわなければなりません。情報が氾濫するネットワーク社会では、世代間の仕事に対する考え方、感性も常に変化しており、育成方法においてもこれまでの経験値では対応できない現実が多くの企業で起きています。今回、ご紹介する企業も、世代交代の為の次世代人材の確保・社員教育に様々な工夫をして、事業の承継に繋げる努力を重ねています。各社の世代交代・後継者育成の考え方について迫ります。

Make You Happy 未来へ。『流れ』を変える人財力

株式会社キッツ

さらなる高みへの挑戦。
価値創造につながる人財育成。

株式会社「キッツ」は1951年に北澤製作所として山梨県長坂町の地で創業以来、バルブを中心とする流体制御機器の総合メーカーとして成長を遂げてきました。現在本社は東京都港区(汐留エリア)に置き、長坂工場はステンレス鋼製バルブを生産する主力工場となっています。創業者・北澤利男氏の理念により、素材からの一貫生産を基本に、鋳造から加工・組立・検査・出荷など全ての工程を社内で行い、お客様が必要とする商品を「必要な時に」「必要な量だけ」「より良い品質で」提供する生産体制を築き上げ、現在キッツは国内有数のバルブメーカーとなりました。

「キッツは総合バルブメーカーですので、多種多様なバルブを生産しています。長坂工場の主体であるステンレス製のバルブは非常に耐食性がある素材ですので、石油化学、建築設備、水処理及び半導体等の分野など幅広いニーズがあり、今後はクリーンエネルギーである水素への活用にも大きな成長が見込まれています。つまり、時代が変われば流体も変わるので、私どもは常に時代のニーズに応えていかなければなりません。そのためには、新たな技術、開発力、製造技術など様々な分野の人財育成が必要です」と話してくれたのはキッツ長坂工場の輿石幸彦さん。

「わたしたちは、時代の変化のスピードが速い中で、対応していける行動力、難題を考え抜くシンキング力、相乗効果を生み出すためのチームワーク力を新入社員に身につけて欲しいと考えています」そこで研修時に大切にしているのは、「ティーチングではなくコーチング」だと言います。「まずは人づくりを重視し、1年目は基本的な技術を学びながら社会人としての基礎を固めます。コーチングにより、1年目の研修が終わる頃には、新しい課題にも自分から立ち向かうようになります。

さらに2年目になると工場長等について経験を積むアドバイザー制度があり、配属された部門で結果を出せるよう常に気付きを与えながら支援しています」と輿石さん。ベテラン社員のスキルを学び、それを自動化、DX化等に展開していく過渡期である今をチャンスと捉え、ベテラン、新人の垣根を越えて全社員が相互補完をしながら新しい会社に変革するための学びの場を計画化しているそうです。「若手社員がチームリーダーとなり、新しいイノベーションを起こしてくれることを期待しています」

新しいことに果敢にチャレンジ
社員一人ひとりの人財力が未来を創る

「技術系の新入社員は、入社後1年間製造基礎課程教育としてキッツのバルブを製作するための製造工程の基礎技術を習得していきます。鋳造、機械加工、工程設計、治具設計の技術技能を習得し、どの部門でも活躍できる人財となってもらうことを目指しています」教育課程の中の機械加工実習をポリテクセンター山梨のオーダーセミナー(旋盤加工技術)で行います。3日間のオーダーセミナーを受講することで、参加した社員は大きく成長すると輿石さんは続けます。「新入社員の大半が旋盤に触ったことすらないところからスタートし、社内で設備構造機能、操作方法及び切削条件設定まで教え、自身で旋盤を動かし、何とか検定品が作成でるレベルまで訓練します。その上でポリテクセンター山梨のオーダーセミナーを受講し、国家検定の普通旋盤検定2級合格ラインの実技指導をお願いしています。ポリテクセンター山梨の特級技能士の資格を持つ一流の講師にふれたことが変化点となって、一気に花開くような成長がみられ、また技能等を自分から取りに行く力も身に付けていきます。社会人基礎力を重要視する観点から、単に仕事の手順を覚え、指示されたことをただ行うのではなく、その目的や原理原則を考えて主体的に行動する人財の育成を大切にしています」と輿石さん。さらに高みを目指せるということを肌で実感できる研修は、新入社員にとって大きな意味を持つようです。

今回のオーダーセミナーである「旋盤加工技術」には、第1班の6名が参加しましたが、社内で学んでいた時とは違う気づきもあったよう。受講生からは「3日間という短いカリキュラムだったが、自分で失敗の原因や改善の仕方などについて考えるようになった」「会社を出て、違う場所、違う先生による研修は、新たな緊張感があった」「理にかなった指導で、基本の重要さがよく理解できた」「就職後、職場での研修も含め教育プログラムを用意してくれている会社には感謝したい」「今回の教育機会を基に、会社の将来を担える人材になりたいというモチベーションが出来た」という感想をお聞きしました。次世代を担う人財は目を輝かせて、研修に取り組んでいました。

  • オーダーセミナー(旋盤加工技術)風景

キッツでは3年から5年の教育を経てどんな難題や、環境下であっても主体性を持って行動できる人財が育まれています。「若手社員の特許技術の創出件数の増加や海外工場での主要ポストへの抜擢も進んでいます。未来を創造できる人財力を高めることが企業価値の向上につながると確信しています」

  • 生産本部 輿石幸彦さん

【イノベーションセンター】
発想力の向上が次世代に向けた
新たな価値を生み出す社員一人ひとりの人財力が未来を創る

「キッツグループ イノベーションセンター」は、人財育成、技術開発及び情報発信機能を備えています。研修機能を持つ他、ショールームやリフレッシュコーナー等を設け、キッツグループ社員だけでなく、ユーザー様や代理店様に対しても研修を受けていただくなど、オープンな交流の場としても活用しています。自由で柔軟な発想や知見の交換が促進されることで、新しいアイデアや技術が生まれ、それがお客様に新しい価値を提供することや、社会貢献につながっていくことを目標にしています。

Top Message 株式会社キッツ 生産本部 工場長 大瀬木 哲也さん未来を創造できる多様な人財が
企業の成長と価値の向上を実現する

人財育成については、型通りの教科書や実習だけではなかなか伝わらないと感じています。そこで今、強化しているのがコミュニケーションです。ベテランと若手が融合し、目標に向かって活動していくためにも、お互いに声をかけ合い、議論し合って進めていくやり方はこれから必須だと考えています。変化の激しい世の中において、私どもバルブ業界も新しい物へ特化していく必要があります。海外メーカーとの価格競争は厳しいというのが事実です。そういった中、まだ世の中に出ていないバルブをつくることと、短納期が勝負どころになります。それをやり遂げるためには、技術力はもちろん、先の動向が読めない時代においても発想力を発揮し、変動に対応していける人財が重要になってきます。そのための教育方針としているのが「コーチング」です。また、現在「エンゲージメント」を向上させることにも取り組んでおり、誰もがやりがいを持って楽しく仕事ができる環境をしっかり整備することを、この先の未来に向かって続けていきたいと考えています。

株式会社キッツ
所 在 地:山梨県北杜市長坂町長坂上条2040
TEL.0551-20-4100
事業内容:ステンレス鋼製バルブ