人口減少と高齢化が進む日本。地方は益々疲弊し、一部の都市に人口が集中する現象が止まりません。大都市と地方と言う固定的な構図から脱却し、新たな地方社会はどのように存続していけば良いか。今号では、その営みにフォーカスします。地元住民・地元企業が大地、転入者・転勤者・県外資本・企業などが風。風が吹かなければ大地は淀み、良い土壌がなければ風は無責任に吹き抜ける。ただ、風と大地が絶妙に相まみえる時に、新たに豊かな土壌が醸し出され、豊かな果実を実らせる。山梨県の企業、事業にも、そのようなカップリングが散見できます。その取り組みや経緯について取材しました。
名峰に囲まれた自然豊かな南アルプス市内にあるトヨタホーム山梨事業所の工場
トヨタグループ会社である「トヨタホーム株式会社」。その重要な拠点として1991年に山梨事業所が操業を開始しました。
「主力工場は、現在全国3拠点。愛知県春日井市、栃木県栃木市、そして山梨県南アルプス市の当工場になります。山梨事業所では鉄骨ラーメン構造を採用した『シンセシリーズ』と鉄骨軸組工法の『エスパシオシリーズ』の生産を行うほか、一部コンビニエンスストアの屋根や柱の生産を担っております。山梨事業所がつくる商品の供給エリアは、山梨県をはじめ、近隣の首都圏、南関東、東海、甲信エリアなど、生産量は全体の約3割。春日井の工場に次ぐ重要な拠点として稼働しています」
話を聞かせてくれるのは、山梨事業所所長・山上吉晴さん。中央道、中部横断道路のインターチェンジも近く、部材調達にも便利な場所として南アルプス市に拠点を構えてから32年。敷地面積15万5千平方メートル(東京ドーム3・3個分)という広大な敷地に建つ工場内には、少しずつ地元の人材が増え、現在は従業員の約9割以上が山梨県出身者または県内在住者。地域の労働市場に大きなインパクトを与える存在となっています。
「住宅部門の地域採用も人材教育の基本は自動車部門の考え方に沿って行います。基本的な工場の作業はトヨタ生産方式に基づく生産性・安全品質に関する勉強、配属先に合わせた技術のトレーニングやOJT、本社での職層教育など、個々のレベルに合わせた教育機会を提供しています。また、近年は高校生のインターンシップ受け入れや、小学生の工場見学の受け入れも実施。子どもたちに『工場での家づくり』を見て知って、ファンになってもらうことをはじめ、彼らが大人になったときに『山梨にもいい工場があったよね』と思い出し、就職先の候補になってくれたらと思います。エリアに定着した企業として成長していきたいですね」
現在、従業員は330名。工場内の夏場の暑熱対策、食堂のレイアウト整備といったハードの改革・充実から、成長を実感できるプログラムの実行といったソフト面の整備まで、より働きやすい環境づくりにつとめているトヨタホーム山梨事業所。とくに「鉄」を扱う工場であるからこそ、夏の暑さへの心配りはきめ細かく、「暑さ指数(WBGT)」を計測し、一定値以上のときにはドリンクを配るなどの対応も行っているといいます。「敷地が広大だから、工場全体を冷やすことはできません。であれば、細かい工夫を重ねて、スタッフが働きやすい環境をつくる。働きやすい環境は生産性や品質にも直結するというのが私たちの考え方です」と語ってくれました。
「工場内の基本的な作業は、手順や要点などをまとめた『作業要領書』に沿って行えば誰でもできるようになっています。ただ、溶接に関しては基準レベルを高く設定しており、工場内でも認定を受けた人物しか作業に当たることができません」と、製作課課長の貝原英樹さん。鉄骨構造の住宅を商品とする同社にとって、溶接技能は要。その溶接分野において、ポリテクセンターの修了生も多く活躍しているといいます。
「ポリテクセンターの訓練生は優秀で粒ぞろい。それが、当社が企業説明会をポリテクセンターで積極的に行う理由の一つ。当社にとって、人材とその採用と育成は生命線ともいえます」
溶接作業は低難易度のものから、技術のみではなく知識がないと行うことができない難易度の高いものまで。従業員たちは年初に計画を立てて、それぞれが資格にチャレンジしながらスキルアップを図っているそうです。
「当工場の特徴として、ここでしか作られていない商品(軸組工法の商品)があることに加えて、新しい商品の企画ができたときには、商品の製作を標準化していくためのプロジェクトチームが立ち上がるという点がある。試作的に色々な商品をつくり、挑戦し続けている工場です。仕事において重要なのは、やらされている感ではなく、自らやっていくこと。成長していきたいという意志を持って前向きに働いている方をグッと伸ばしてあげられる成長の機会があると考えています」
「溶接工程」
「ポリテクセンターで金属加工全般を学んだ知識は、現在の仕事に役立っています」(古屋さん)、「ポリテクセンターで学んだことと、現場で先輩から教わったことなどが上手く連動して仕事に活かせた時などは、自分自身の技術の向上を感じられて非常に達成感があります」(趙さん)と聞かせてくれたほか、「現状に満足せず、向上心を持って作業にあたっていきたい」(渡邉さん)、「今は中堅技能職で役職には就いていませんが、ゆくゆくは職場の『組』を支えたり、周囲を引っ張って行ったり、前に立つ立場を目指しています」(梶原さん)といった前向きな意見も聞こえてきました。
修了生同士で仕事やプライベートでの相談をすることはもちろん、「先輩社員の方々がとても接しやすく、技術面をはじめ、さまざまな面でサポートしてくださるので、すばらしい環境の中で仕事に向き合えている」という声も。ポリテクセンターを経て、製造業にとび込んだ4名の修了生たち。それぞれの目標を胸に、さらなる技術を身につけて、会社に良い影響を与えられる存在になっていきたいと目を輝かせていました。