山梨県を代表する企業のひとつ「株式会社はくばく」。ヴァンフォーレ甲府のメインスポンサーとして、ユニフォームのロゴでもおなじみの同社は、歴史と独自の存在理由(企業理念)、そして時代に合わせた柔軟な人材管理においても特筆すべき点が多い。今回の記事では、「はくばく」の歩みや地域との関わり、社内の人材管理など、同社独自の取り組みに焦点を当てて紹介する。
中央市に本社を置く食品メーカー「はくばく」。〝The Kokumotsu Company〟を名乗り、創業以来、穀物の健康効果に着目し、多くの人においしく食べてもらうためにと工夫を重ねてきた企業です。
「はじまりは戦後の食糧難の頃。当時はなかなか白米が手に入らず、多くの人は大麦を主食とせざるを得なかったそうです。しかし、大麦は『食べづらい』印象がある穀物。どうして食べづらいのかと考えた時に、創業者・長澤重太郎は『大麦には黒い筋が入っている。この筋が見た目を損ねている』と考え、黒い筋(黒状線)に沿って麦の粒を半分に切断する切断機を開発。白い米のように見せることに成功しました。長澤氏はこれを『白麦米(はくばくまい)』と名付け、販売したそう。これが社名の由来です」
長澤氏らが地元の企業と協力して作り上げた裁断機「峡南式高速度切断機」は、本社のエントランスに今もディスプレイされています。
販売を続けていくうち、長澤氏は大麦の健康効果に着目するようになります。というのも、東京に働きに出た若者が体調を崩して山梨に帰ってきた際、大麦のご飯を食べて健康を取り戻しているという気づきがあったからでした。
以来、はくばくは大麦から広く穀物全般を扱う穀物のリーディングカンパニーへと成長。「おいしく食べて、健康になってもらいたい」という願いのもと、白米の代わりではなく、白米とともに新しい主食の選択肢となる穀物を世界中に届ける活動を継続しています。
本社エントランスに飾られた峡南式高速度切断機。
長澤重太郎氏が「大麦の黒状線をカットする」というアイデアを思いついた当時、長澤氏の考えを実現する機械はこの世に存在しませんでした。そこで、長澤氏は、地元のものづくり企業と協力して開発。以来、はくばくの社内には「ないものは、つくる」という風土が根付いているそう。現在も一つの新しい商品開発の際に、機械装置からつくる、ということが珍しくありません。装置そのものを開発し、かつ修理・保全も自分たちで行うこと、これが食品会社である同社の独自性であり、ノウハウが決して外に漏れない理由でもあります。
「はくばくならではの商品をつくるための技術力というのは、当社の特徴の一つです。例えば、当社では、製造ラインのスタッフが機械の不具合に対して自分たちで調整を行います。これができることによって、トラブル時にもすぐに対応できて製造ラインを止めることがないので、仕事に支障をきたしません」。こう話すのは、開発部技術開発課の岩間聖司さん。同社では3年ほど前からポリテクなどの外部講習も積極的に活用。「外部で技術を学び、社に持ち帰って活かすことで、当社の技術開発のノウハウを外に出さないことにもつながります。人材教育によって、開発・修理・保全を一貫して社で行う。これが、当社が独自の路線で走り続けることができる理由ではないでしょうか」と続けてくれた。
「世にない独自の商品をつくるためにはものづくりから」と、創業から一つの商品をつくるために機械づくりから行ってきた同社。食品メーカーという単なる供給会社の枠にはとどまらない活動を展開。その人材教育の方針としては、3年ほど前から外部講習を積極的に活用するようになりました。
「その一つがポリテクセンターとの取り組み。当社向けの独自の教育プログラムの検討をしたり若手スタッフがセミナーに参加させていただいたりしています。外部の専門機関を活用させていただくというのはとても意義のあること。例えば装置づくりや修繕に重要な電気などの専門的な分野について、セミナーで基本理論を学ぶことは業務上の安全にもつながる上、スタッフのスキルアップや自信にもなっていると感じます」と岩間さん。「いくつもの成長のステップを用意し、レベルや希望に合わせたステージに挑戦できる環境を整えておくこと。そうすることで従業員により主体的な姿勢が生まれると考えています。ポリテクセンターとも相談しながら、教育システムを構築していけたらいいですね」
私は2019年に他業種からはくばくに転職しました。現在は原料(大麦)を選別してタンクに入れる生産ラインで業務にあたっています。世界各地から届けられる麦は個性があるもの。それを当社の規格値に合う形に削り、上手にタンクに配分する裁量が求められます。
私は当社で働き始めて以来、2つの外部セミナーを受講しました。受講の理由は、広い視野を持ってものづくりに関わりたいと感じたことと、体系的に教わることで基礎から身につけたいと感じたこと。工場で働いているだけでは視野が狭くなってしまいがちですが、当社ではこのように「学び」の選択肢が用意されています。食品メーカーとはいえ、仕事の中で扱うのは食品のみではないため、機械や電気系統など、外部の講習などを利用できるシステムが整えられています。機械に関する知識を学ぶことで、トラブル時にも生産ラインのスタッフが自分たちで対処できるようになる。そうなれば、生産ラインを長く止めることもなく、滞りなく商品をつくり続けることができます。
今後のキャリアとして、生産以外の仕事にも挑戦したいと思っています。その次に向かうためのステップとして、ポリテクの講習はとても役に立ちます。改善の意欲や提案が通りやすいのが、当社の特徴。興味のある分野をどんどん学んで、自らの仕事の選択肢を広げていきたいと考えています。
所在地:山梨県中央市西花輪4629(本社)
TEL.055-274-8989
事業内容:食品製造業