変化が激しい時代、企業が存続する条件として、社員の市場変化への適応力は重要な要素です。これまでの人材育成システムが今後も通用するのか、改革が必要なのかを見極めることも、経営者として大切な判断だと思います。慣習的に取り組まれてきた階層教育や、OJTのみに依存した後継者育成など、これまでの常識が通用する時代ではなくなってきています。日本の労働市場は、欧米のように雇用される者の責任としてスキルを身に付け、必要な専門性を持つ雇用労働者と企業が契約する社会ではありません。人材育成を企業の戦略として取り組む経営者側、その人材育成システムで成長しようとする雇用労働者側共に、人材育成の目的、動機、結果責任を明確にし、柔軟なシステムの再構築が必要な時節だと考えます。今号は、常に人材育成のあり方を模索しながら、社員教育に取り組む企業にフォーカスします。
東京都昭島市に本社機能を置く「株式会社リガク」。同社で生産される「X線解析装置」は、世界シェア3割を誇り、幅広い分野で科学技術の進歩に貢献している装置です。北杜市にある山梨工場では、その核となるパーツを生産。今回の記事では、「株式会社リガク」の特徴と強み、社内スタッフのモチベーション管理など、成長し続ける企業の人材育成について紹介します。
創業は1951年。東京都昭島市に本社のある「株式会社リガク」はX線分析・熱分析・X線非破壊検査機器の専門メーカーとして、世界に誇るものづくりを実践し続けている企業です。
「当社で生産する『X線回折装置』は、主に企業や大学などの研究機関で使用される専門装置。分子レベルの結晶にX線を照射することで、その構造や配置を測定するために使用します。学術・研究分野など、化学分野の高度化を支え、人々の生活向上に貢献できる装置として期待されています」
話を聞かせてくださるのは、山梨工場の工場長中村栄作さん。もっとも分かりやすい例を挙げるとレントゲンがX線を発見して病院などで使われるものが透過像で人体内部を見る装置です。リガクが主に作っている装置は同じX線でもX線回析、蛍光X線という透過像とは異なる物理現象を使った装置を作っています。リガクでは、X線を発生させる装置から解析装置まで、大きさもさまざまなX線分析装置の開発・生産を強みとしています。
「1992年に誕生した山梨工場は、当社の中でも花型とも言われる装置の核の生産に携わる工場です。高い精度と精密な組み立てを行う山梨工場には現在、約130名のスタッフが勤務し、最終的に組み立てられた装置は世界89カ国以上で使用されています」
取引の6〜7割は海外という同社。中でもX線解析装置は世界シェア3割を誇ります。
「小さい装置から、数人がかりで組み立てを行う大きな装置まで。いずれも精密な作業精度を求められます。世の中の製造業が大量生産・自動化していく風潮の中で、私たちが製造に携わるのは少量生産の専門装置であり、高精度のものは数ミクロン単位などの調整が必須。ダイヤルゲージを用いて手作業での調整を繰り返して完成させるのです」と工場長は教えてくれます。
地元の人材を活かすべく、地元採用も積極的に行う同社。加えて山梨工場には女性スタッフも多く働き、製造のための部品調達や出荷前の品質管理などの役割を担っています。2021年頃からは、個人スキルの向上を目指してポリテクセンターの講習やセミナーを利用するようになったという同社。
「講座案内のパンフレットが届いたことをきっかけに、社内でアナウンスしてみると参加を望む従業員が現れました。データの集計に活かせるエクセルのスキルをはじめ、業務効率化やそのための改善のヒントとなるRPAツールなど、勉強をした従業員が学んだことを社内でフィードバック。エクセルやショートカットキーを使いこなす若手の姿が増えていくなど、それぞれ業務の中に落とし込んでいる姿が見受けられ、嬉しく思っています」と中村工場長は話します。
例えば電気設備に関する基礎知識は、低電圧の細工が必要な装置をつくる際に必要になるもの。ものづくりを主とする工場として稼働する山梨工場では、製造の技術以外の学びの場を外部に求めることは近年珍しくないそう。
「講座の利用はベテランより若手の参加が目立ちます。各個人のレベルアップを目的に呼びかけを始めましたが、作業効率の改善のヒントにつながっていたり、全体のモチベーションアップを感じられていたりと、イメージしていなかった副次的な変化も見られます。日々進歩する科学技術分野に携わる者として、常に知識をアップデートしていくことは重要なこと。その機会が開かれているのですから、自社内で手を回すことができていなかった部分は今後も積極的に外部も利用していきたいと考えています」
6年前にサービス業から製造業を目指し、リガクに転職しました。きっかけは親戚が働いて声をかけていただいたこと。家も近く、通いやすいのも決め手でした。仕事は「ゴニオメーター」というX線解析装置に重要なパーツの製造に携わっています。車でいうとエンジンのようなパーツです。「ゴニオメーター」は年間300台前後という少量生産の大きなマシンなので、5人ほどのスタッフが関わりながら、パーツを作ったり組立てたりしています。
仕事の難しさは、シビアな精度を求められること。数ミクロン単位で角度を手作業で調整する熟練の技術が求められます。「ゴニオメーター」は花型の品目なので、任せていただけることが嬉しく、作業にもやりがいを感じています。
近年は品質管理の向上とさらなる業務効率化を目指して外部の研修にも参加するようになりました。研修のメニューは上司が案内をくださったり、自分で興味のあるものを見つけたり。私はエクセルのマクロの講習に参加しましたが、それまで敷居が高いと感じていたことを、わかりやすく噛み砕いて教わることができ、早速業務に役立てています。このような講習を利用して業務の効率化をはかれるようになることで、改善提案に使うことができるほか、全体を見渡す余裕を持つことにもつなげられると思います。製造において手仕事の技術が上がることももちろんですが、使える武器が増えていく感覚は楽しいですね。
所在地:山梨県北杜市須玉若神子4495-8
TEL.0551-42-3371
事業内容:X線装置関係、材料測定などの
化学機器の製造・販売