人口減少、大都市への一極集中は、地方がこれまで培ってきた特徴的な産業や文化を衰退させ、地方の荒廃感を醸し出しています。そういった状況に対し、ノスタルジーではなく、新たな姿に再生しようと挑戦する事業者にスポットを当ててご紹介します。空き家、耕作放棄地、負の観光遺産など、未来に向けて、どのようなビジョンを描き、再生事業に取り組んでいるかに迫ります。
新たな姿に再生
挑戦する事業者 1
代表取締役千葉 健司 さん (一級建築士)
今後のビジョンは、いまだに空き家や空き店舗が多いので、まとめてリノベーションに取り組み、“リノベーションヴィレッジ”のようなコミュニティを創り、県外からの移住者も含め、新たな事業運営者を呼び込んでいきたいとお聞かせいただきました。“アメリカヤ”ビルは、オーナーの息子さんから、“IROHA CRAFT”が譲り受け、名実ともに韮崎のリノベーションの象徴的な建造物となりました。また、まちづくり会社「ニラサキヤ」を仲間と一緒に立ち上げ、イベント、不動産事業にも積極的に取り組んでいきたいともお話しいただきました。韮崎の街らしい新たな文化や生活を築き上げようとする活動に、今後も目を離せないと思わせる再生への取組みでした。
空き店舗や空き地の再利用に、全国的なチェーン店や大型商業施設を誘致する時代は終わり、その地域独自の街の再生を、住民自らが関わって次世代に引き継ぐ時節が来たことをつくづく感じた取材でした。
高校時代を韮崎で過ごした“IROHA CRAFT”代表の千葉さん。リノベーションに力を入れることになったきっかけは、高校時代に慣れ親しんだ〝アメリカヤ〟ビルの存在でした。建築家になって、Scrap & Buildによる古い建物を壊して、新しい建造物を建てることの繰り返しに違和感を覚え、独立後、笛吹、甲斐、韮崎と拠点を移動する中で、思い出が残る建物を直して新たな付加価値を宿らせる建築士になろうと、リノベーション事業に軸足を置くことを決意します。高校時代の思い出が詰まった〝アメリカヤ〟ビルが、使われなくなって廃屋となってしまっている姿を見、オーナーさんも解体準備を進めていることも知り、こんな面白い建物を壊したくないと、建物を丸ごと借り受けてリノベーションに着手します。この〝アメリカヤ〟のリノベーションに、ご本人も予想していなかった大きな反響があり、その後の展開に繋がったそうです。
千葉さんによれば、元々、街を再生しようとか、トータルリノベーションという想いで、事業に取り組んだわけではなかったと仰っていました。たまたま単独の物件のリノベーションに取り組んだ結果が、大きな反響を呼び、韮崎という地域の街のリノベーションに繋がっていったそうです。アメリカヤ横丁、カフェ、雑貨屋、ケーキ屋、ゲストハウスなど、次々にリノベーションが進み、そこにはユニークで実力のある事業者が入り、営業活動を行っています。昔の賑わいを再現するのではなく、人口が減少する中で、県外からの移住者と地元の方々とが共生する新たな韮崎の街を形作り始めました。シャッター街だった韮崎の街が、大都市とは違う街の未来や可能性を見せてくれています。大きな利益や、多くのお客さん確保を目指した営業ではなく、地元の市場に馴染み、自分のペースで、自分がやりたいことを持続できる環境です。
韮崎のリノベーション物件
雑貨 “オッポ商店” ゲストハウス“ニラサキヤSTAY1”
アメリカヤビル内のユニークな構造
【企業PROFILE】
株式会社アトリエいろは一級建築士事務所 IROHA CRAFT
山梨県韮崎市中央町10-17 アメリカヤビル4F