地方の活力を維持し続ける上で、インフラを支える在来型の産業の存在が重要です。インフラ整備にあたり、県外企業の力を借りなければ事業が進まない状況は、県土の荒廃を招く危険性もあります。その地域が自立していくための条件として、建設、土木、溶接などの関連企業は欠かせません。ただ、残念なことに、これらの業界では次世代人材を確保することが、年々難しくなっています。今号では、山梨県鉄構溶接協会会員企業で、建築鉄骨、一般鉄工、溶接組み立てなど、地方が自立していく上で不可欠な企業にフォーカスし取材しました。昔の業界のイメージとは違う、DX社会に対応した現場と新たなるやりがいについて紹介します。
鉄構溶接業界を支える
昭和30年に発足した(社)日本溶接協会山梨支部と、昭和48年に発足した(任)山梨県鉄構工業連合会は、幾多の変遷を経て、平成24年に一般社団法人・山梨県鉄構溶接協会として統合されました。鉄構・溶接業界に携わる人材の発掘・育成をはじめ、労働災害の防止を目的とした安全な職場環境づくりなど、労働安全衛生に関する指導を通じて、業界を支える役割を担っています。
「年間を通して3つの大きな事業があります」と聞かせてくれるのは、事務局の古屋昭彦さん。3つの事業とは、JIS規格や日本溶接協会規格に基づく技能者評価試験、また、鉄構・溶接技術・技能の競技大会の開催、さらには、鉄構・溶接工業の品質管理及び安全管理に関する事業などです。
「どこの県にも溶接や鉄構の協会団体というのはありますが、2つが一緒になって活動しているのは全国でも山梨県が唯一の団体です。協会は正会員と賛助会員から構成されています。現在、正会員として活動しているのは50社あります」と古屋さん。溶接に関係する企業は意外なほど多く、中には一般的に知られている事業内容や企業名だけでは溶接と結び付きづらいような企業もあるそう。「幅広く応用できる技術です」と教えてくれます。
飯田 康雄 実行委員長
高校の部 出場選手
青洲高校 山口 文殊(みこと)さん
同協会が主催する「溶接競技大会」は、50年以上の歴史を持つ独自の取り組み。ポリテクセンターも、開催初期から競技会に関わりを持ち、会場としてポリテクセンターを長年利用しています。指導員も競技委員として参加しています。
「溶接競技大会は溶接技術を幅広く啓発することを主な目的として開催しています。幅広い層の選手が一発勝負で競い合う大会ですが、ここ数年は女子選手の姿も増えてきました」と飯田康雄実行委員長。「本大会をモチベーションにしている人も多く、自分の日々の成果が見られることに加え、他の人の溶接を見るだけでも勉強になるんですよ」と運営副責任者の三浦順一さんが教えてくれます。
「溶接は自己の研鑽」と話すのは、鉄構溶接協会・会長の板橋明好さん。年に1度行われる「溶接競技大会」の意義は、皆で溶接をする場を設けることで、他の人の技術を見て、学び合うという点にあるそう。自分の立ち位置を知ることができたり、外を見る意識付けになったりという意味でも継続が大事なのだと聞かせてくれました。
その他の取り組みとして、人材確保と職場環境改善活動も協会の役割。「溶接」を知ってもらうことに始まり、若手人材の育成、そして職人たちが安心して長く働ける環境づくりも大切です。「とくに新人教育に関しては、企業単位で行うのはなかなか難しいということで、ポリテクさんと一緒に仕組みづくりを行い、山梨県全体の溶接に関わる若手の教育の場としています。旧来の『見て学ぶ』スタイルを脱却し数値化・レシピ化を実施することで業界全体に広く指導が行きわたるようになっています」ポリテクで共通の講座を受講するなど、開いた教育とすることで業界の中で仲間をつくることができるのもポイントだと教えてくれます。
「私たちの協会のもっとも大きな役割は、溶接や鉄を知ってもらうこと。同時に、さまざまな建物や工業製品が溶接という技術を通して出来上がっていることを感じてほしいと考えています。鉄に関して言えば、鉄を使っていない建物・製品って、現代ではほとんどありません。そう考えると、自分の企業が何らかの形で携わった建造物や製品が、子どもや孫の世代まで残っていくものになる…。裏方の仕事でなかなか表には出ないからこそ、溶接という技術やその分野で仕事をする職人がいることをたくさんの人に知ってほしいと思います」と板橋会長。協会の役割を語ると同時に、今後は教育の分野にさらに力を入れていくことと、信頼関係のさらなる深化を目指すことを聞かせてくれました。
一般の部 出場選手 大久保鉄工(株)
堀口 敏也 さん
運営副責任者 三浦 順一さん