日本の雇用慣習は、世界の中でもかなり特異な存在です。まず、新卒の同時期一括採用を行っている国は、先進国では日本だけです。Japan as NO.1ともてはやされた1980年代、「終身雇用、年功序列、企業内組合」が日本産業界の三種の神器と言われていました。企業が一丸となって、高品質の製品を、低コスト、短納期で大量に供給していた団体戦の時代は、その効果を最大限に発揮していて、諸外国から“日本に学べ”と盛んに言われてもいました。これを支えていた雇用契約が、今、「メンバーシップ型雇用」と言われている採用方法で正社員を対象とし、職務を明記せず、職務内容を限定しない、人事部主導の異動、年齢・勤続年数に応じた賃金であることが特徴で、いわゆる入社契約と呼べるものです。
慶応大学大学院商学研究科教授の鶴光太郎氏は、ズバリ“無限定正社員”と定義しました。産業構造、市場原理も大きく変わり、働き方改革が声高に語られる今、この雇用契約方法は曲がり角にきていると言わざるを得ません。一方、非正規雇用と言われるカテゴリーでは、欧米型の「ジョブ型雇用」が主流で、職務限定、職務連動賃金が特徴で、「メンバーシップ型雇用」が、会社のメンバーになる契約だとすれば、必要な期間、必要な職務に限定して採用すると言う、ある意味、企業の人件費の調整弁として、正社員と非正規社員での使い分けに用いられてきた感が強くします。有識者の中には、この「ジョブ型雇用」の本来の概念を正しく理解し、雇用改革を進めるべきだと言う意見も多くあります。
企業側が対応しやすい「メンバーシップ型雇用」から、制約が多い本来の「ジョブ型雇用」へのシフトも、人材確保難である今後の採用戦略で重要な選択肢となるのではないでしょうか。
宇治平等院から4キロほどのところにある従業員数130名あまりの中小製造業です。2019年、社にお邪魔して、当時、代表取締役副社長の山本昌作氏(現在相談役)、専務取締役の山本昌治氏(現在顧問)からお聞きした話を中心に、選ばれる企業のその理由(ワケ)について考えます。
1961年、京都府で僅か3名の従業員で創業した山本鉄工所がHILLTOPの始まりです。幼少期の大病の後遺症で、耳が不自由になられたご長男であり代表取締役社長の山本正範氏(現在会長)を兄弟がバックアップする形で、先代から会社を引き継がれました。ご兄弟の経営に変わってから、大企業の下請け仕事からの脱却、ベテラン従業員の技能に依存する仕事のやり方の変革を目指し、ITスキルを駆使して、アルミ切削加工製品の多品種少量(単品)・短納期(受注から3日〜5日)生産を中核とした企業に生まれ変わりました。
HILLTOPの革新性は、卓越したスキルに到達するまでに何年もかかる加工技術のデータベースを自社開発し、常にヴァージョンアップし続けていることです。経験年数が短い社員でも、技術を見える化することで、難しい加工にも対応できるようになりました。その分ITの上級スキルは必要となりますが、そのIT力が今の生産プロセスを支えていて、HILLTOPは今も進化を続けています。
企業規模を考えると、新しい社員をそれほど数多く採用できるわけではありませんが、求人に対する応募者数の多さは、多くの企業が人材確保に苦しむ現状を考えると本当にうらやましい状況です。
社に訪問させていただいた際に感じたことは、まず社屋の外観が製造業の工場に見えないこと、屋内は、明るく自由闊達な雰囲気に満ち溢れていたことに驚かされました。また、社員さんが若いなというのも記憶に残っています(2019年当時、平均年齢32歳)。前述したように、従来の製造業では最も時間がかかる加工工程に労力を取られない分、新しい仕事やイノベーションについて、アイディアを考えたり、プランを練ったりする時間があり、若い社員のやりがいに繋がっていることが、社風からも感じられる職場でした。
社員採用も、幹部クラスだけで決めるのではなく、一緒に働く若手社員の意見が反映される採用プロセスになっていました。効果的な人材確保戦略として、企業のイメージアップ、SNSの駆使、インターンシップへの積極的な取り組みなど、多くの企業が対策に取り組んでいますが、HILLTOPの現状を拝見する限り、手段ではなく選ばれる理由(ワケ)は、“やりがい”と“夢”が、次世代人材のモチベーションの中心にあることをつくづく感じました。労働契約の型、給与、労働時間、休日数、福利厚生などの労働条件も重要ですが、本質的な「やりがいのある仕事、職場」を望む若者が多いことは現実として受け止め、採用活動にあたることが重要ではないでしょうか。
CASESTUDY:HILLTOP株式会社
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