東京で漫画家として活躍していたイセダマミコさんは、ワインへの興味をきっかけに2013年に山梨へ移住。住まい探しの際に触れた「リノベーション」に感動し、建築の世界にも興味を抱くようになっていたという。2018年、55歳のときにポリテクセンターに入所したイセダさんは、現在は漫画家兼大工として活躍。イセダさんの行動の背景にあった想いと、55歳からのチャレンジについて紹介する。
20歳の時に「漫画家になりたい」と上京。様々な先生に師事したのち自ら連載漫画家となり、漫画の世界で活躍してきたイセダマミコさん。30年以上東京に暮らすも、近年出版業界が大きく変わり、漫画も紙から電子へと変わっていく流れの中で将来に不安を感じ「東京は暮らしているだけでコストがかかる街。ずっと東京はしんどいなと思うようになりました」と、東京以外での暮らしを考えるようになったと言います。
その頃、興味を持っていたのがワイン。飲むことはもちろん、ワインの造り方に興味を持っていたイセダさんは、ワインの勉強会で知り合いになった塩山にある「キスヴィンワイナリー」へ1年ほどワイン造りの取材に通います。「どんどん山梨に惹かれていきました」というイセダさんは49歳の時、山梨への移住を決意。その3年後に出版したのが、ワインを題材にした『今夜もノムリエール』でした。
「今夜もノムリエール」は注目を浴びたものの、漫画の仕事がどんどん減っていくことに焦りを感じたイセダさん。「ずっと漫画家だったから、漫画以外に自分に何ができるかわからなかったんです。とりあえず、とバイトをして、就活をして、正社員として働いていたこともあります。」バイトも会社員として働くのも楽しかったと振り返るイセダさん。しかし、「これは本当に自分がやりたかったことなのか」という思いが頭から消えなかったと言います。
「自分が何が好きかをもう一度考えてみたんです。その時に思い出したのが、建築関係のお仕事に魅力を感じていたこと。山梨で家探しをしている時に見せてもらったリノベーション空間がとても素敵で感動したことを思い出しました。そこで、建築関係の仕事で働きたいとハローワークへ行きました」。しかし経験も資格もないイセダさん。「完全に門前払い状態でした」と話します。
「そんな時に目についたのが、ポリテク。55歳という年齢に不安を感じながら「これから学んで建築の仕事ができますか?」とお聞きすると「自分次第」とお答えいただいたことを覚えています」
アロマトリートメントサロンBOA
代表 作道 美貴さん
〒400-0071 山梨県甲府市羽黒町1311-5
mobile:090-6546-4535
mail:rum2011@outlook.com
ポリテクセンターの後輩、作道美貴さんの経営する「アロマトリートメントサロンBOA」。
内装のアドバイスや施工の一部をイセダさんが手がけた。
雇用保険を受け取りながら、ポリテクセンター「建築CADサービス科」で学ぶうち、より建築への興味が高まったというイセダさん。在所中に資格にチャレンジすることはもちろん、就活を並行し、工務店から内定をもらいます。
「なんと、大工としての採用でした。とにかく現場経験を積もうと思いました。はじめは手が届かなかった建築業界でのお仕事。すごく嬉しかったですね。」
それから佐野工業で働きながら、夜は学校に通って2級建築士の資格にチャレンジ。コロナ禍をきっかけに今一度働き方を見直し、2021年8月にフリーの大工に。建築とは縁遠い職種から転身し、山梨で活動を続けています。
「ポリテクセンターでの学びをきっかけに、どんどん新しいつながりができて、大工仕事はもちろん今は空間デザインやインテリアデザインのお仕事もしています。今年お手伝いさせていただいた「BoA」さんは、ポリテクセンターの後輩・作道さんがオーナーをするお店。喫茶店でポリテクの案内誌に載っていたという私を見つけ、声をかけてくれたことをきっかけにお手伝いさせていただきました。これも縁ですよね。ポリテクセンターは基礎的な知識や技術が身につくのはもちろん、こうしたつながりができるのも魅力。大人になってクラスメイトができたり、同じ資格を目指して切磋琢磨し合う新しい友達ができるってなかなかありませんから」
一宮にある自宅は民泊もできるようにリフォーム中。
(手書きの設計図/右上写真)
敷地内には建築中の収納もできる作業小屋が建つ。